Vol.2「海洋散骨は違法?合法?グレーゾーン? 散骨と法律について」月イチ連載「村田ますみのブルーオーシャン終活コラム」

Vol.2「海洋散骨は違法?合法?グレーゾーン?  散骨と法律について」

  • 左から「海洋散骨セミナーの様子」「海洋散骨ルールブック」

   海洋散骨は、2019年末において、全国で年間1万件~1万5000件ほどおこなわれていると言われています。(正確な統計はありませんが、事業者へのヒアリング等を通じで推計される数字で、ほぼ現実に近い件数だと思われます)
年間の死亡者数が約136万人ですので、亡くなる方の約1%が散骨という葬送を選択していると考えられます。ただ、潜在的に散骨を希望されている方は多く、ここ数年は、「墓じまい」という動きもありますので、これから先も、海洋散骨は、一つの選択肢として増え続けると予測されます。
 
   さて、これだけ市民権を得て広がりつつある海洋散骨ですが、一部で「グレーな行為」と指摘をされることがあります。果たして本当に散骨は、法的にグレーゾーンなのでしょうか?ここで、散骨の法的な位置づけについて確認しておきましょう。
なお、本コラム執筆にあたって、「海へ還る~海洋散骨の手引き」(啓文社書房)より、一般社団法人日本海洋散骨協会の法律顧問、武内優宏弁護士のパート「第三章 海洋散骨に関する法律」を参考にさせていただきました。
 

刑法190条(遺骨遺棄罪)との関係

◎遺骨遺棄罪

 「死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得した者は、3年以下の懲役に処する。」       海洋散骨は、刑法で定める遺骨遺棄にあたるのでしょうか?以下の行為について考えてみましょう。

・粉骨という行為について

 散骨をするために、遺骨を粉々に砕く行為。 刑法190条の「損壊」とは「物理的に破壊する行為」を言いますので、粉骨という作業は、遺骨損壊罪に該当するとも思えてしまいます。

・撒くという行為について

 遺骨をお墓や納骨堂に入れずに撒くという行為は、遺骨を遺棄しているようにも見えますので、散骨が遺骨遺棄罪に該当するとも思えてしまいます。しかし武内弁護士は、散骨は「遺骨遺棄罪」には当たらない と断言されています。刑法190条の保護法益は死者に対する社会的習俗としての宗教的感情とされています。
そこから、遺骨遺棄罪における「遺棄」とは「社会通念上埋葬と認められない態様で放棄すること」と理解されています。すなわち、「社会通念上埋葬と認められる態様」であれば、遺骨を撒いたとしても直ちに遺骨遺棄罪にはならないのです。
 
 この点については、平成2年に法務省刑事局が「刑法第190条の規定は社会的習俗としての宗教的感情などを保護するのが目的だから、葬送のための祭祀で節度をもって行われる限り問題ない」という見解を述べたとされています。
この見解が公式見解であるか非公式見解であるかは様々な意見がありますが、いずれにしても「節度をもって」散骨をしている限り、いきなりそれが刑事罰の対象となるという事態は考えづらいと言えます。
このように、節度を持った散骨が刑法190条違反として刑事罰の対象となることは基本的にはありません。
 

墓地埋葬法との関係

 墓地や埋葬方法について定めた法律として、『墓地、埋葬等に関する法律』(省略して「墓地埋葬法」)があります。海洋散骨は、この墓地埋葬法に記載がないので、グレーな行為だと言われることもあります。
確かに、墓地埋葬法4条1項は「埋葬又は焼骨の埋蔵は、墓地以外の区域に、これを行つてはならない。」としていますつまり、墓地埋葬法では、埋葬と焼骨の埋蔵しか規制の対象にしていません。では、散骨は規制がないので、違法またはグレーな行為と言えるのでしょうか?                                                                                   この点についても、武内弁護士は明確に否定されています。
「人間はそもそも自由なのですから、法律に書いてあることだけができるというわけではありません。村田さん、法律には空気を吸っていい、恋愛をしていい、とは書いてないですよね。だからといって、空気を吸うこと、恋愛をすることは違法ですか?」と言われ、非常に腹落ちしました。
 
 墓地埋葬法に散骨に関する記述がないということは、散骨は墓地埋葬法で規制をされていないということであり、規制がされていない以上は禁止されていないのです。
この点、散骨が墓地埋葬法の規制の対象か否かについては、厚生省(現:厚生労働省)の生活衛生局という部署が平成10年6月に発表した「これからの墓地等の在り方を考える懇談会報告書」という報告書から読み解くことができます。
 
 報告書においては、「散骨は、墓地埋葬法の立法当時、社会的事実がなかったためにあえて規定しなかったものと考えられる。」とした上で「散骨が公衆衛生上の問題を生じたり、社会通念上国民の宗教的感情を損なうような形で行われるのでなければ現行法上特に規制の対象にする必要がないというのが現在の行政の考え方であり、これは是認できるものである。」としており、散骨が公衆衛生上の問題を生じたり、社会通念上国民の宗教的感情を損なうような形で行われない限り、規制の対象にはならないとしております。
この報告書からしても、厚生労働省も、散骨は、原則として規制の対象にはなっていないと考えていることが伺い知れます。
 

海洋散骨は、行政上も適法として扱われている

◎東京都のホームページ
「散骨に関する留意事項」

例えばですが、東京都福祉保健局のホームページにおいて、散骨に関する留意事項というページが用意されています。都民から特に問合せの多い散骨に関する質問について、取り上げて解説されています。

「散骨をしたいと考えていますが、散骨をしても法律に触れませんか。」
「散骨には許可や届出などの制度はありますか。」
「散骨を行うときに留意することは何かありますか。」
「自宅の庭に散骨してもよいですか。」
「お墓から焼骨を取り出して散骨したいと考えていますが、可能ですか。」

 このように、東京都のホームページにおいても散骨について「地元の自治体に確認をすること」を勧めながらも規制がないことを説明されており、このことからも散骨が適法として扱われていることが分かります。

◎改葬許可証に「散骨」と記載する自治体

 既にお墓に納骨されている遺骨を散骨する際、市区町村が発行する改葬許可証が必要になることがあります。改葬許可証には改葬場所を記載する必要があるのですが、改葬場所として散骨する海域を、改葬理由として「散骨」という記載をしている自治体もあります。改葬許可証という公的な書類に「散骨」の記載があることからしても、散骨がグレーな行為ではなく、実務上適法な行為として扱われていることが分かります。

散骨は、無制限に許可されているわけではない

◎条例やガイドラインによる規制

 先に示した報告書においても、「現行法のままでも、公衆衛生上又は国民の宗教的感情の問題を生じるような方法で散骨が行われる場合には墓地埋葬行政として当然規制の対象になる。」としており、散骨に全く規制がないわけではありません。
 そうすると、どのような場合に公衆衛生上又は国民の宗教的感情の問題が生じると考えられているのかが問題になりますが、この点については、「規制については国民の習俗に関する重要な事項に関わるものであるので、議会が制定する法規である法律や条令によることが必要」とした上で、「葬送方法には強い地域差があること、墓地埋葬に関する規制権限は地方自治体が行う自治事務であることから、地方の実情を踏まえて条例で定めることが適当」としております。
 そうしますと、各自治体の条例で禁止されていない限り、散骨は法的に許されていると考えてよいというのが武内弁護士の見解です。
 先ほど例示したとおり、東京都は現時点では散骨に対して特に規制が必要と考えていないことが分かります。このように東京都を始めとする多くの自治体は散骨に対する規制をしていません。もっとも、全国的に見るといくつかの地方自体で条例等による規制がされています。
 
①陸地での散骨について
 
「岩見沢市における散骨の適正化に関する条例」
 
「秩父市環境保全条例」

 などの条例は、散骨自体を墓地や許可を受けた散骨場などでしか行えないというように規制しています。諏訪市墓地等の経営の許可等に関する条例、御殿場市散骨場の経営の許可等に関する条例、七飯町の葬法に関する要綱などは散骨場の経営に関する規制を設けております。

②海での散骨について

 海での散骨について、条例で禁止している地方自治体はありません。ただ、ガイドライン、指針といった形で散骨事業者に対しての方針を示している自治体はあります。

「熱海市海洋散骨事業ガイドライン」
 
「伊東市における海洋散骨に係る指針」
※条例で禁止されているわけではないので、従わなかったことについて制裁があるわけではありません。
 なお、後述しますが、日本海洋散骨協会では、熱海市海洋散骨事業ガイドラインが策定された際に談話を発表しております。

◎損害賠償の可能性

 以上のように、散骨は適法な行為であり、節度を守って行っている限り刑罰法規や行政法規に違反するものではないと言えますが、それと民事上損害賠償請求をされるかどうかということは別個の問題です。
 他人の私有地に散骨をすることは当然許されませんし、そうでなくても、自分の土地の近くでたくさん散骨をされていると土地の評価が下がりかねない、農地や漁業権のある沿岸部への散骨をされると風評被害がたち農作物や魚介類の値段が落ちてしまうなどというトラブルになることが予想され、それにより損害を被った方から不法行為に当たるとして損害賠償請求をされる可能性は否定できません。
 トラブルや損害賠償リスク防止のためには、散骨に否定的な方も多くいるということを踏まえて、そのような方たちからも是認されるような態様での散骨を心がける必要があります。
 

海洋散骨ガイドライン

 以上のように散骨は適法な行為です。
しかしながら、自由にできるというわけではなく、遺骨遺棄罪との関係では、「葬送のための祭祀で節度をもって行われる」ことが重要です。また、墓地埋葬法との関係では「公衆衛生上の問題を生じたり、社会通念上国民の宗教的感情を損なうような形で行わない」ことが重要となります。
 では、どのような形態の散骨であれば「葬送のための祭祀で節度をもって」「公衆衛生上の問題を生じたり、社会通念上国民の宗教的感情を損なうような形ではなく」行われる散骨と言えるのでしょうか。
この点について定めたものはありませんので、ある人が節度をもった散骨であると考えていても、それが世間的に見て節度を越えていると判断されてしまうこともあり得ます
そのため、日本散骨協会では、「節度をもった散骨」と言えるかを判断するための基準として平成26年12月1日に海洋散骨ガイドラインを作成、公表し、加盟団体に対してガイドラインの順守を求めています。
 また、墓地埋葬行政は、地方の実情も反映されることから、日本全国を各ブロックに分けて、各ブロックごとのルールも策定しています。

 

「海洋散骨協会ガイドライン」(一般社団法人日本海洋散骨協会)

日本海洋散骨協会では、散骨に対する規制を検討している各自治体と協議をし、海洋散骨ガイドラインを説明し、海洋散骨ガイドラインに沿った散骨であれば規制の必要はない旨の説明をしております。

 

次回タイトルは「お墓どうする?墓じまいを進めるときのポイント」です。
ご期待下さい!

 

<村田ますみ氏プロフィール>
株式会社ハウスボートクラブ 代表取締役社長
一般社団法人日本海洋散骨協会 初代理事長
GSI認定グリーフサポートバディ・フューネラルセレブラント
【経歴】
1973年生まれ、東京都出身。
同志社大学卒業後、IT業界、生花流通業を経て、母の死をきっかけに
2007年に株式会社ハウスボートクラブを設立。
2014年に一般社団法人日本海洋散骨協会代表理事に就任。
2015年に日本初の終活コミュニティカフェ【BLUE OCEAN CAFE】をオープンし、終活のトータルサポートを本格的に開始。
終活セミナーの講師としても活躍(年間60回程度)。
【著書】
「お墓に入りたくない!散骨という選択」 朝日新聞出版(2013年)
「海へ還る 海洋散骨の手引き」 啓文社書房(2018年)
【Webサイト】
海洋散骨のブルーオーシャンセレモニー
ライフコミュニティカフェ「ブルーオーシャンカフェ」

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