福昌寺・飯沼康祐の 旬粥日和 ~趣を以って粥を食す~
三月
白粥とごま塩
一心にすり鉢に向かい、清浄な日々をおくることで
桜の花も一段と美しく感じられる気がいたします。
日本最古の歴史書である『古事記』に「木花咲耶姫(このはなさくやひめ)」という名が出てきます。桜の花のように美しいこのお姫様は、富士山に桜の種を蒔いたとも伝えられています。日本人が愛する花である桜。中でも人気のソメイヨシノは八重桜などに比べ色が薄く、光の当たり具合によっては白色にも見えます。白色は白無垢や神棚の白木に用いられるように、清浄を象徴する色。私たちは本能でこの色を欲しているのかもしれませんね。
今回のお粥は草木生い茂る弥生にふさわしい清浄な白粥です。療養食のイメージが強い白粥ですが、炊きたてのお粥は「人を待たせても粥を待たせるな」とたとえられるほど美味しく、心身をあたためてくれます。今回は白粥の味を引き立てる、手間暇をかけたごま塩を添えました。ごまは精進料理において貴重なたんぱく源であり、煎りたて、すりたての風味は格別。すり鉢にしっかり正対し、一心にすり始めると何とも言えない満ち満ちた気持ちになります。そして、日々、なんとなく向き合ってしまっている自分を反省する時でもあります。
静かに座り、季節の恵みをいただく。そんな当たり前のことを有り難く感じることこそが、心ゆたかな生活のはじまりなのかもしれません。